企業法務担当者のビジネスキャリア術

東証プライム上場企業に勤務する企業法務担当者がライフログの一環として日々の出来事を記録しています。

【契約書】熊本空港へのフライトのはずが福岡空港で降ろされる珍事!?/債務不履行責任と不可抗力免責との関係

1.天災が多かった1年

今年も残り3ケ月ほどだが、台風・地震・大雨と天災が多い一年だった。日本における経済活動、特に物流面に及ぼした影響も大きく、商品の引き渡しが遅延するなどの問題が各業界で生じていることだろう。自社でも例外でもなく、相談が寄せられたことがあるが、このような場合、不可抗力免責条項が問題となる。 

不可抗力条項(Force Majeure)とは、地震、津波、戦争など契約当事者がコントロールできない事象が発生した場合で、債務の履行ができない、または債務の履行が遅延したときに、債務者が債務不履行責任を負わない旨を定めた条項である。これは、取引基本契約書の後半部分などに一般条項の一つとして以下のとおり明文化されることも多く、企業法務担当者にはおなじみの条項だ。 

第●条(不可抗力免責)
天変地異、戦争、内乱、暴動、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、労働争議、輸送機関・通信回線の事故、為替の大幅な変動その他当事者の責めに帰すことのできない不可抗力による個別契約の全部または一部の履行遅滞、履行不能または不完全履行については、当該当事者は責任を負わない。

 2.不可抗力免責を主張された経験

この不可抗力免責条項だが、過去に私が飛行機に搭乗した時、航空会社(ANA)から主張された経験がある。

それは、2年ほど前に仕事で熊本出張した際のこと。当時、私は、伊丹空港からプロペラ飛行機に乗って、阿蘇くまもと空港に向かった。 

 

当日は西日本全域が雨模様で、搭乗時に伊丹空港において「天候不良のため、定刻どおりに阿蘇くまもと空港に到着できない場合があります」とアナウンスされていた。私としては、「まあ、たぶん大丈夫だろう」と楽観的に考えて、そのまま飛行機に乗ったが、これが甘い考えであったことを後で思い知らされることになる。

 

所要時間は1時間強ほどで、予定どおり阿蘇くまもと空港の上空まで到達。しかし、辺りは雨風が強く、飛行機は3~4回着陸にトライしたが、うまくいかない(機体が軽いプロペラ飛行機のためか、強風で機体があおられていた)。かれこれ1時間半近く空港上空を旋回しており、機内の雰囲気も「大丈夫かよ・・」と微妙な雰囲気になってくる。

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結局、機長から「当機は、悪天候のため、阿蘇くまもと空港ではなく、近隣の福岡空港に着陸します」というアナウンスが流れる。その後、20分ほどで福岡空港に着陸して、係員から「福岡空港から博多駅までの地下鉄切符と博多から熊本までの新幹線切符を提供するので、これで熊本に向かって下さい」という説明を受ける。その時にもらったのが、こちらのチケット(珍しい経験なので、写真を撮っておいた)。

 

「とんでもないことになった」と思いつつ、急いで地下鉄に乗って博多に移動。博多駅から九州新幹線に乗車して40分ほどでようやく熊本に到着するが、予定は大幅に遅れてしまった。もちろん、疲労でぐったりきたのは言うまでもない。

 

こういった一連の流れを法的に検証すると、まず乗客である私とANAは運送委託契約(ANAは伊丹から阿蘇くまもと空港まで私を輸送し、私はその対価をANAに支払う)を結んでいる。この場合、ANAがHPで公開している「国内旅客運送約款」が適用される。

実際は、私はチケットに記載された到着時間・到着場所と合致していない場所(福岡空港)に降ろされた。この場合、本来は、ANAは、私に対して債務不履行責任を負うが、契約約款第44条5項に基づき、最終的には不可抗力として免責される。 

 

第44条(会社の責任)
1.会社は、旅客の死亡又は負傷その他の身体の障害の場合に発生する損害については、その損害の原因となった事故又は事件が航空機内で生じ又は乗降のための作業中に生じたものであるときは、賠償の責に任じます。
2.会社は、受託手荷物その他の会社が保管を受託した旅客の物の破壊、滅失、紛失又は毀損の場合に発生する損害については、その損害の原因となった事故又は事件が、その受託手荷物又は物が会社の管理下にあった期間に生じたものであるときは、賠償の責に任じます。
3.会社は、本条第1項及び第2項の損害について、会社及びその使用人(本章において、使用人とは被用者、代理人、請負人等の履行補助者をいう。)が、その損害を防止するため必要な措置をとったこと又はその措置をとることができなかったことが証明された場合、賠償の責に任じません。
4.会社は、持込手荷物その他の旅客が携行し又は装着する物の破壊、滅失、紛失又は毀損の場合に発生する損害については、会社又はその使用人に過失があったことが証明された場合にのみ、賠償の責に任じます。
5.会社は、法令及び官公署の要求、航空保安上の要求(航空機の不法な奪取、管理又は破壊の行為の防止を含みます。)、悪天候、不可抗力、争議行為、騒擾、動乱、戦争その他の会社のいずれかに生じたやむを得ぬ事由により、予告なく、航空機の運航時刻の変更、欠航、休航、運航の中止、発着地の変更、緊急着陸、旅客の搭乗制限、手荷物の全部又は一部の取卸その他の必要な措置をとることがありますが、当該措置をとったことにより生じた損害については、本条前4項により会社が責任を負う場合を除き、会社は、これを賠償する責に任じません。

 

このような法的検証を行う乗客は、おそらく私ぐらいだろうが、大半の乗客は「悪天候なので、仕方ない」という感じで、急ぎ足で福岡空港を後にしていたと思う。ただ、考えようによっては、航空会社が急な目的地変更(ダイバード)に際して、乗客に代替切符を用意してくれただけまだマシだ。ANAではなくLCCならば、こうした手厚い対応は望めなかっただろう。

3.まとめ

今年は、特に天災が多かったが、来年以降もそうならば、企業法務担当者にとって不可抗力免責条項(と危険負担)が問題となるケースも増加するだろう。その場合は、契約書や法律などに基づいて粛々と解決していくしかない。 

民法改正対応 取引基本契約書作成・見直しハンドブック

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