個人的には、企業法務担当者にとって、今年一番のニュースは4月に施行された改正民法だと思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだ。6月19日にそれを上回る重大なニュースが飛び込んできた。日本国政府、法務省、経済産業省が「契約書はハンコがなくても有効である」という指針を公表したのだ。
タイトルは、「押印についてのQ&A」という簡単なもので、ページ数もたった5ページ。しかし、書かれている内容は、企業法務担当者をはじめとする法曹関係者にとって「大激震」と言っても差し支えないもの。
簡単に要約すると、以下のとおり(微妙に長々しい文章で、重要なのは最終の問6につきる)。
- これまで文書に署名または押印があれば、その文書は真正に成立したとみなされていた。(民事訴訟法第228条4項の形式的証拠力)
- しかし、文書の成立の真正は、本人による押印の有無のみで判断されるのではなく、成立経緯を裏付ける資料など他の方法によって立証することは可能であり、ハンコの押印は決して必須ではない。
- 例えば、電子署名や電子認証サービスだけではなく、電子メールの送受信記録(継続取引の場合)、本人確認情報(新規取引の場合)などの保存は代替手段として有効である。
この指針は、新型コロナウイルスでテレワークが推奨される状況下でありながら、「契約書にハンコを押印するために出社する」という非効率性を是正するために、国が打ち出した「奥の手」ともいえる。これによって、国内企業におけるテレワークはより一層推進されていくだろう。さらに、日本人にとってなじみが深かったハンコ文化が大きな転換点を迎えるのは間違いない。
新型コロナウイルスは、日本人のライフスタイルを大きく変えたといえるが、結果として、企業法務の分野まで波及することになってしまった。さすがにこれは予想できなかったが・・。
冒頭に述べたように、4月の改正民法の対応が一通り終わって、「やれやれ。これでしばらくノンビリできそう」と一服ついていた私。
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しかし、この政府指針に対しては、企業としてどのように対応していくべきか本腰を入れて検討せざるを得ない。・・・・どうも今年は楽をすることができなさそう。まあ、考えようによっては、このような歴史の転換点の当事者となることはそうそうないし、企業法務担当者として、貴重な経験ができると考えたい。