企業法務担当者のビジネスキャリア術

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【書評】「サムライ資格という毒薬」福井識章(扶桑社)/士業を取り巻く環境が激変しつつあり!?

図書館で借りて一気読みしたのが意味深なタイトルのこちらの本。
本書は、弁護士、司法書士、社会保険労務士、行政書士などの士業について、業界の今後の方向性について問題を提起した一冊。著者は行政書士の資格者で、おおよその内容は以下のとおり。
  1. 「資格を取れば何かの役に立つかも」という安易な考えで、資格試験にチャレンジするべきではない。「資格を取れれば、一生安泰」という古い考え方はとうに終わりを告げている。大事なのは「資格をとること」ではなく、「資格をとって何をしたいか」である。
  2. ITやAIの進化が資格業者から仕事を徐々に奪いつつあるし、この動きはこれからも加速していく。
  3. 仕事のパイが減少した結果、士業同士でも隣接する士業の仕事に越権するケースが増加。このような縄張り争いが発生し、業界全体の問題になりつつある。
  4. 資格はあくまで「記号」に過ぎないので、自分自身の人間力で勝負するべき。
 
本書では、弁護士問題についても触れている。弁護士の近年の平均年収は減少傾向にあるが、その原因は法科大学院が新設された結果、供給過多になったから。法科大学院構想が登場した当初は、このような状況は、誰もが予想できなかったはず。
 
2.については、司法書士の場合、インターネットで調べれば、登記申請書のひな型はいつでも見られるし、私自身もそれを参考にして実家の抵当権抹消登記を申請したことがある。また、以前にも触れたとおり、商業登記に特化したリーガルテックがすでに登場している。
 
極論すれば、士業のビジネスモデルとは、ユーザーが持っていない知識やノウハウを切り売りするというもので、これらをネットやAIが代替えするようになれば、確かに大きな影響を及ぼすだろう。

 

 
私がかつて勤務していた司法書士業界の場合、景気が良かったのは1980年代のバブル絶世期~崩壊直後まで。当時は不動産もよく動いていたため、それに付随して登記のニーズがあり、業界全体も潤っていた。しかし、あれから40年が経過して、日本は人口減少社会に突入し、それに比例して住宅着工件数も登記件数も年々減少傾向にある。もちろんすぐにはゼロにはならないだろうが、今の状況から推測する限り、パイは徐々に縮小していくだろう。
 
あと、別に司法書士に限らず、士業というものは、独立してナンボだが、そのためには安定して仕事をくれる太い顧客が必要。私がかつて勤務していた司法書士事務所の経営者(すでに死去)は、金融機関や不動産会社の経営者との太い人脈を持っていたので、それを生かして仕事を継続的に受注していた。しかし、今の若手士業がそのような人脈を持つのは相当ハードルは高い。すると、独立するのは難しくなり、事務所勤務にならざるを得ない。ただ、(これは私が働いていた当時の状況だが)事務所勤務の場合、社会保険に未加入の事務所が多く、待遇面でいろいろ問題が多い。
例えば、私の知人には司法書士・社会保険労務士・行政書士の有資格者が何人かいるが、その大半は特に独立開業しておらず、保有している資格と関係ない別業界で一会社員として働いている者もいる。それだけ今の時代における士業の独立開業のハードルはそれなりに高い。
結局、私自身といえば、紆余曲折を経て上場企業において企業法務の仕事に従事している。結果として、それが自分にとってハッピーだったと思う。当時に今の自分は全く想像もできなかったけれど、人生とは本当に何があるかわからない。
 

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