今月に入って上場企業から2022年3月期の決算発表が相次いでいる。上場企業は、証券取引所規則で期末から遅くとも45日以内に決算短信を公開しなければならない。従って、5月の第2週になると、決算発表が相次ぐのは毎年おなじみの光景。自社も先日、決算短信を公開。コロナ禍でありながら、増収増益でまずまずの業績で、夏のボーナスもそれなりに期待できそう。
さて、私は、企業法務と並行して、取引先の信用調査や企業分析などの与信管理や債権回収業務に従事していた時期がある。従って、取引先(得意先や仕入先)の決算書や帝国データバンク等から購入した信用調査報告書(信用調書)も毎日のように読んでいた。もともとは純粋な企業法務担当者である以上、数字には苦手意識があり、B/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)の数字を読み解くのに当初苦労していたが、不思議なもので、1~2年もすると苦手意識はなくなって自然に読みこなせるようになる。さすがに現職の経理・財務マンには到底及ばないけれど、それなりの会計知識も習得することができた。
従って、私は、法務だけではなく、与信管理のスキルも保有しており、これが現在の私のキャリアには非常に役立っている。例えば、株式投資を行ったり、経済雑誌を読む際には、決算書を読みこなす能力が求められるからだ。というわけで、今回は、私なりの企業分析を行う際のポイントを紹介したい。
<ポイント① 日経ネットを駆使する>
日経ネットの個別銘柄の株式紹介ページでは、その会社の情報がコンパクトにまとまっている。特に業績は棒グラフで視覚的に見やすくまとまっており、便利。
日経ネットの個別銘柄の株式紹介ページでは、その会社の情報がコンパクトにまとまっている。特に業績は棒グラフで視覚的に見やすくまとまっており、便利。
ちなみに、Yahooファイナンスにも似たようなページは企業情報をまとめたページはあるが、レイアウトに一貫性がなくて、ゴチャゴチャして見にくい。個人的には、日経ネットの方がスッキリしていて見やすい。
ただ、スマホのアプリ版のYahooファイナンスは非常にシンプルで見やすいので、スマホにインストールして、時折参照している。
<ポイント② EDINETを活用する>
日経ネットでもある程度の情報を入手できるが、上場企業の最も詳しい情報をインターネットから無料で入手できる方法がある。それが有価証券報告書。
日経ネットでもある程度の情報を入手できるが、上場企業の最も詳しい情報をインターネットから無料で入手できる方法がある。それが有価証券報告書。
EDINETとは、「Electronic Disclosure for Investors' NETwork」の略。金融商品取引法において上場会社等に対して作成が義務付けられている開示書類が掲載されているシステム。有価証券報告書は事業年度終了後3ケ月以内に公開しなければならないが、会社の概況から事業や設備の状況、大株主、財務状況まで様々な情報が掲載されている。 大手企業の場合、100ページ以上に及ぶこともあるが、それだけに量・質ともにこれ以上の詳細な資料は存在しない。まさに上場企業に関する情報の宝庫ともいえ、これらが無料で入手できるので、活用しない手はない。
<ポイント③ P/LとB/Sは過去と比較して検証する>
いたって基本的なことだが、決算書は一期分だけ見てもあまり意味がない。過去2~3期と比較して検証することによって、その会社の真の動きがよく見えてくる。
いたって基本的なことだが、決算書は一期分だけ見てもあまり意味がない。過去2~3期と比較して検証することによって、その会社の真の動きがよく見えてくる。
- 売上・営業利益・経常利益・当期利益は増加・減少傾向なのか。
- 純資産は、当期利益を蓄積して増加しているのか。それとも赤字で棄損しているのか。また連続当期赤字によって資本食い込みや債務超過に陥っていないか。
例えば、5月13日に破産申請した元ジャスダック上場のオンキヨー(オンキヨーホームエンターテイメント)は、近年の売上・利益とも右肩下がりで、赤字連発に陥った結果、債務超過に転落。数年前から明らかにダウントレンドに陥っており、今回の破産という結果も時間の問題だった。
<ポイント④ 段階利益から会社の状態を把握する>
P/Lは、売上➝売上総利益➝営業利益→経常利益➝当期利益と段階的にプラスマイナスを加えながら表示していく。従って、各段階の数字の動きからその期の会社の収益体質を読み取ることができる。
例えば、売上総利益の変動は売上または在庫の大小が原因。粉飾決算を行う会社は、この在庫の数字をコントロールすることが多い。また、営業利益は会社の本業の調子を表す。本業不振で営業利益が赤字の場合、株式や不動産を処分(営業外収益として計上)して経常段階から黒字にしようとする会社もある。その一方で、自社従業員の給与を抑えておきながら、創業者社長の退任にともなって、退職金をたんまりはずんで一時的に当期赤字となる会社もある(非上場企業に多い)。
このように、P/Lからその会社に関する様々なストーリーを読み解くことができる。
<ポイント⑤ 定量情報と定性情報の双方をチェックする>
定量情報とは数値化できる情報で、定性情報とは数値化できない情報をいう。定量情報の代表的なものはB/SやP/Lなどの決算情報。一方、定性情報の例としては、以下が挙げられる。これらからも会社の変化を読み解く一因となる。
定量情報とは数値化できる情報で、定性情報とは数値化できない情報をいう。定量情報の代表的なものはB/SやP/Lなどの決算情報。一方、定性情報の例としては、以下が挙げられる。これらからも会社の変化を読み解く一因となる。
- 銀行筋が不動産担保や動産譲渡担保を設定している。
- 最近、従業員から退職者が増えている。
- M&Aで他社に買収された。
- 製品の大型不良が頻繁に発生した。
- 他社から損害賠償請求訴訟を提起された。
<ポイント⑥ 非上場企業の決算書を過信しない>
上場企業は監査法人のチェックが入るため、ある程度信頼性が高いが(ただし、組織ぐるみで監査法人をだまそうとする悪質な会社もあるが)、非上場企業となると日経ネットのように、決算書を入手するのが難しいし、官報公告では定量情報としては不十分。そうなると、帝国データバンクなどの信用調査会社から信用調書を購入するしかない。しかし、それでもB/SやP/Lの数字が推定値だったり(その会社が興信所の調査マンの取材に非協力的など)、よくわからないことも多い。その気になれば、上場企業より粉飾しやすいのが現実。
上場企業は監査法人のチェックが入るため、ある程度信頼性が高いが(ただし、組織ぐるみで監査法人をだまそうとする悪質な会社もあるが)、非上場企業となると日経ネットのように、決算書を入手するのが難しいし、官報公告では定量情報としては不十分。そうなると、帝国データバンクなどの信用調査会社から信用調書を購入するしかない。しかし、それでもB/SやP/Lの数字が推定値だったり(その会社が興信所の調査マンの取材に非協力的など)、よくわからないことも多い。その気になれば、上場企業より粉飾しやすいのが現実。
他にも書き出せばきりがないが、とりあえず今回はこれぐらいで。現代ビジネスパーソンの三種の神器スキルは、「IT・会計・英語」と言われるが、会計は一種の共通言語ともいえる。過去に外国会社の決算書を読んだこともあるが、日本の決算書とほぼ同じスタイルなので(流動資産と固定資産の表示位置が上下逆転しているぐらい)、読み解くことができた。
このように会計スキルを身に着けると、ビジネスパーソンとして幅が広くなるため、ある程度の習熟をお勧めしたい。