企業法務担当者のビジネスキャリア術

東証プライム上場企業に勤務する企業法務担当者がライフログの一環として日々の出来事を記録しています。

【契約書】大規模通信障害に伴うKDDIの補償責任はどうなる?/過去に事業者とのトラブルで契約約款を熟読した立場より

1.大手キャリアで通信障害が発生

7月2日から7月5日にかけてKDDI系列の通信サービス(au、UQ mobile、povo)で全国的な通信障害が発生。全国規模で通信サービスが不能になったニュースで大々的に報じられたのは記憶に新しい。
本ブログで何度か取り上げているように、我が家の携帯はNTT系列のインターネットイニシアティブ(IIJ)が提供している格安SIMを利用している。従って、特に影響はなかった(余談だが、今回の通信障害の影響で、IIJへの加入者が増加しているとか)。

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2.ユーザーに対する補償責任は?

通信障害は回復した現時点では、KDDIのユーザーに対する補償責任が問題になるが、その解決基準は、KDDIとユーザーとの契約内容次第。そして、今回のようなB to Cの場合、事業者があらかじめ作成・公開している契約約款が適用されることが多い。私自身も企業法務担当者として、これまで自社の製品やサービスに関する契約約款を作成した経験があるので、今後のKDDIの方針には個人的に大いに興味がある。KDDIのHPで公開されている契約約款を確認すると、第75条のKDDIの損害賠償責任が定められているが、このあたりがポイントになるはず。
 
第 75 条(責任の制限)
1.当社は、au(5G)通信サービスを提供すべき場合において、当社の責めに帰すべき理由によりその提供をしなかったとき(その原因が協定事業者の責めに帰すべき理由による接続専用回線の障害であるときを含みます。)は、そのau(5G)通信サービスが全く利用できない状態(その契約に係る電気通信設備によるすべての通信に著しい支障が生じ、全く利用できない状態と同程度の状態となる場合を含みます。以下この条において同じとします。)にあることを当社が認知した時刻から起算して、24 時間以上その状態が連続したときに限り、その契約者の損害を賠償します。
2.前項の場合において、当社は、au(5G)通信サービスが全く利用できない状態にあることを当社が認知した時刻以後のその状態が連続した時間(24 時間の倍数である部分に限ります。)について、24 時間ごとに日数を計算し、その日数に対応するそのau(5G)通信サービスに係る次の料金の合計額を発生した損害とみなし、その額に限って賠償します。 (以下省略)
 
今回のケースにあてはめると、「KDDIの責任により/ユーザーに対して通信サービスを提供できない状態が/24時間以上連続した」ため、KDDIはユーザーに対して損害賠償責任を負担するのは間違いない。その具体的な金額は第75条第2項に定められている算出方法に基づいて決定されるはず。もしかしたら、KDDIの法務部門は顧問弁護士に相談しながら、方針を検討しているかもしれない。ただ、1人あたりの金額は多額ではなくとも、利用者は3000万人近くいるので、トータルではそれなりの金額になるのでは?
もっとも、2022年3月期の連結決算を確認したところ、KDDIは売上は5兆円、営業利益1兆円という収益力抜群の超優良企業なので、ある程度損失を被ったとしても会社が傾くことはないだろうけど。

3.契約約款とは?

一般的にB to B(企業間取引)の取引内容は契約書(取引基本契約書や工事請負契約書)で明文化されていることが多い。その一方で、B to C(企業対消費者取引)の場合、事業者と利用者との間でいちいち契約書を結んでいられない。そこで、事業者はあらかじめ契約約款を作成・公開しておき、消費者がサービスを申し込む利用申込書の末尾に「本契約約款に同意します」という一文を設けておくことで契約約款に同意させるスキームが大半。

 

また、契約約款を整備する際に、事業者サイドが注意しなければならないのが消費者契約法。同法8条によれば、あまりも消費者に不利な契約条項は無効になるのだ。例えば、KDDIの契約約款に「通信サービスが提供できなくなって消費者に損害が発生しても、KDDIは絶対に責任を負わない」という条項があっても、それはただちに無効になってしまう。
 
消費者契約法第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
①事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
②事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
③消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
④消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
 

4.事業者とのトラブルで契約約款を熟読した経験あり

以前にもブログのネタにしたけれど、2019年秋に妻が自動車事故の被害にあって、保険会社との間でトラブルとなった際、当時、保険契約約款を隅から隅まで読みつくした記憶がある。私が保険会社の塩対応に我慢できなくなって会社に怒鳴り込んだ際(?)にも、むろん契約約款を持参しながら話をしたし、相手方の担当者も契約約款を所持していた。

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また、2018年に出張で伊丹空港から阿蘇くまもと空港にフライトした際、悪天候で着陸できず、運悪く福岡空港に降ろされたというトラブルに遭遇したことがあった。この場合、厳密には航空会社(ANA)はユーザーに対して債務不履行責任を負うべきだが、契約約款には不可抗力責任がきちんと定められていたので、ANAは免責されることになる。

このように、契約約款とは消費者契約法で禁止される箇所を除き、法律に優先して当事者間に適用されるルールそのものといえる。今回のKDDIの大規模通信障害に伴う法的責任の取り扱いについて、いずれKDDIから今後の方針が発表されるだろう。企業法務担当者である私にとって、今回の法務問題がどのような結末を迎えるのか興味津々・・・。