企業法務担当者のビジネスキャリア術

氷河期世代の企業法務担当者がライフログとして日々の出来事を記録しています。2009年に開始したブログは17年目を迎えました。

【転職登山】僕が「後悔しない人生」を選べたのは、たった一度の山登りのおかげだった/道と人生の交差点における決断

1.あの日の自分の会いにゆく。2年9ヶ月ぶりの再訪

先日の週末に大阪府八尾市に出かける用事があり、ついでに近辺の生駒山系の高安山(487m)に登ってきたので、その様子を紹介したい。

 

 

当日は、近鉄鶴橋駅から近鉄大阪線を経由して近鉄信貴線に乗車して服部川駅(マップ①)で下車。そのまま北に向かって住宅街を歩くと、八尾市立歴史民俗資料館に到着(マップ②)。せっかくなので、トイレ休憩を兼ねて立ち寄って内部を鑑賞。二階建ての館内では、八尾市の遺跡から発掘された土器などが展示。土器や生活道具を静かに眺めていると、遠い時代を生きた人々の気配がわずかに胸に届く。旅の序盤にこうした場所に立ち寄ると、ただのトレッキングが少しだけ「時の旅」めいてくるから不思議だ。
 

※近鉄信貴線は服部川駅と信貴山口駅の二駅だけの支線。

 

※9月下旬の朝で吹きすさぶ風が心地よい。やれやれ今年の猛暑もようやく終わり。

 

※住宅の合間からこれから登る生駒山系を眺める。

 

 

※館内をめぐっていたのは私だけだった。

 

 
その後、住宅街を抜けて東に向かって坂道を歩くと玉祖神社(マップ③)に到着するが、その前を左折して脇道に入って、急坂を登ると水吞地蔵尊(マップ④)。本堂前にはデッキがあり、そこからは八尾市や大阪市の眺めが広がる。はるか遠くに見えるビルは、あべのハルカスだろうか。都市の喧噪を遠くに置き去りにして、しばし秋風に身をゆだねる。この解放感こそがトレッキングの楽しみの一つ。

 

 

2.記憶の小径をたどって

しばらく休憩してから、林を抜けるとこんもり盛り上がった芝生広場(マップ⑤)があり、こちらのベンチで簡単に昼食を済ませる。さらに東に進むと生駒スカイラインと交差する十三峠(マップ⑥)に到着し、道路に沿って進み、やがて南に折れる。
 

 

※林の途中で季節外れのツクツクボウシの鳴き声に驚く。もう10月になろうとしているのに・・。
 
 
このあたりに到着して、ふとデジャブーをおぼえて思わず立ち止まってしまった。・・・以前にこの場所を訪れたことがあるような。気のせいだろうか。かろうじて電波が届いていたので、スマホで自分のブログを調べてみると、やはりあの日──2022年12月の師走に私はこの道を歩いていたのだった。なんという偶然。その当時は生駒山系の東側から登って南に折れて、この場所を訪れていた。詳しくは以下の過去記事を参照してほしい。

 

kigyouhoumu.hatenadiary.com

 

2.過去への追憶、そして現在

あの日の記憶が、鮮やかに蘇る。当時の私は、妻にもまだ打ち明けられない重い悩みを背中のザックと共に背負っていたのだ。
 
 

「このまま今の会社に留まるべきか、それとも転職して新たな道を探すべきか」

 
 
目の前に続く、先が見通せない曲がりくねった道。それはまるで、当時の私の心象風景そのものだった。
 

※先が見通せないカーブを当時の心境になぞらえたもの。まあ、誰の人生もそうなんだろうけど。
 
 
前職(プライム上場企業)は、給与だけを見ればそれほど悪くない。無借金経営で、自己資本比率も高く、倒産とは無縁。だが、当時の私は知財部門に異動となり、(特許侵害訴訟を経験して勝訴するなどそれなりに珍しいキャリアを積むことができたが)自分がこれまで地道に培ってきた法務審査やITスキルを100%活かせない環境は、ビジネスパーソンとしての魂を少しずつ蝕んでいくようだった。これまで苦労して習得してきたスキルを最大限活かすことができない環境が果たして自分のキャリアにとってプラスといえるのだろうか?「安定」という名の霧に惑わされ、このまま定年まで歩き続けるべきか。家族もいるし、年齢的にも転職の失敗は避けたいところ。いやしかし・・・。トレッキングの最中にも答えの出ない問いが、頭の中をぐるぐると巡る。不安と焦りが、一歩ごとに足に絡みつくようだった。
 
 
「・・・・とりあえず、この山を登りきってから決めようか」
 
 
そう心に決め、ただただ前に向かって無心に歩いたことを思い出す。そして、ゴールの信貴山に辿り着き、澄み切った冬空の下で心がスッキリした時、すでに私の答えは決まっていた。
 
 
「一度しかない人生だ。後悔だけはしたくない。やってみるさ。」
 
 
そして、その日帰宅した私は、妻に私の本心を懇々と打ち明けて、驚いた妻をじっくり説得。そして、年が明けて2023年の正月休みに職務経歴書の準備に着手し、1月上旬に転職活動をひそかに開始。すると不思議なことに、しばらくしてハイキャリア専門の転職エージェントから思いがけないヘッドハントの話が舞い込んだのだ。このタイミングの良さには本当に驚いた!まるで当時の私の悩みを見透かしたように、どこかの神様がポンとセレンディピティを投げ込んでくれたような錯覚をおぼえたもの。だがしかし。・・・ならば乗るしかない、このビッグウェーブに。
 

kigyouhoumu.hatenadiary.com

 
 
もし、あの山道で決断を見送っていたら、この<僥倖>に出会うこともなかっただろう。人生とは、運とタイミング、そして自らの決断が織りなす綾なのだと、今にして改めて思う。あれから2年9ヶ月が経過。現在の職場で、私は相応のポジションを得て、水を得た魚のように自分の専門スキルを文字通り縦横無尽に発揮している。百戦錬磨の私にとってキャリア・職位・収入の面で特に不満はない。あの日の選択は、間違いなく私を「幸せな場所」へ導いてくれた。
 

3.そして今も「道の途中」

さて、私の人生の一大転換期となった当時の事を振り返りながら生駒スカイラインに沿う山道を南に歩くと、やがて高安山(マップ⑦)の山頂に辿り着く。標高はささやかでも、ここに至る道にはそれぞれの記憶が折り重なっている。2年9か月前の迷いと、いまの安堵と自信。その両方を抱き合わせながら眺める景色は、以前とはまったく違う色をしていた。

 

前回は南東の信貴山(しぎさん)に向けて進んだが、今回は南西に進む。気象レーダー(マップ⑧)の横を歩き続けると、ケーブルカーの駅(マップ⑨)があり、ここから下ると近鉄電車に合流できる。とりあえずトレッキングは、ここで終わり。

 

 

 
 
今回のトレッキングは、単なる山歩きではなかった。自宅を出るときには、予想もしなかったが、過去の自分と現在の自分が同じ道で出会い、内省し、静かに語り合う時間となった。
 
人生はしばしば登山に喩えられる。頂を目指す道は曲がりくねり、見通せず、ときに苦しい。だがへこたれずに歩みを着実に続けていれば、思いがけない景色や出会いが待っている。また5年後、10年後にこの道を再び歩くことがあるだろうか。そのとき私は、どんなことを思い返すのだろう。人生とは、ゴールに辿り着くことだけがすべてではない。悩み、迷い、それでも一歩一歩を確かに着実に踏み出す。この「道の途中」こそが、人生そのものなのかもしれない。