1.二つの規制改革
菅政権の発足後、河野規制改革担当相が様々な改革を進めているが、企業法務の分野にも大きな影響を与えそうな論点が二つある。
一つ目は、「脱ハンコ」。これは今春の非常事態宣言下において、ビジネスパーソンが押印のために出社する姿が批判されたことが原因だろう。実際のところ、私自身も契約書への押印業務のために出社していた。まずは行政官庁で推進されるようだが、いずれは民間企業にも何らかの影響が出るかもしれない。
確かにインターネットやスマホなどのテクノロジーがこれだけ進歩しているにもかかわらず、紙にハンコを押印するというアナログ的な日本的慣習は時代遅れ感が否めないのも事実。コロナ渦の状況にある今だからこそ脱ハンコの動きがあらわれたのだろう。6月にも政府から「契約書にハンコがなくても有効」という見解も公表されているし、この動きはますます加速していくだろう。
kigyouhoumu.hatenadiary.com二つ目は「収入印紙の見直し」。印紙税法の関係で、契約書等に収入印紙を貼付しなければならないが、これを見直す動きがあるという。世の中には誤解している人も多いが、印紙が貼付されていなくとも、契約書自体は法的に有効。従って、印紙税の存在意義について疑問を持っている人も多いのでは?
私も企業法務担当者である以上、印紙税のルールを一応守っているが、普段からきちんと貼付しているにもかかわらず、国税庁の税務調査等では全く見向きもされず、モチベーションが下がる時もある。このように、この法律には「正直者が馬鹿をみる」的な一面があるため、なかなか悩ましい。ただし、実際問題として、収入印紙は国の税収確保的な一面があるため、いきなり廃止にはならないだろうけど。
私も立場上、印紙税に関する相談を受ける機会は多い。例えば、最近寄せられた質問は以下のとおり。
相談者「取引基本契約書や売買基本契約書には4,000円の収入印紙を必ず貼付しなければならないのか?」私「決してはそうではない。いわゆる7号文書には細かい要件があり、タイトルだけで単純に判断してはいけない。中身がポイント。」相談者「注文請書に貼付する印紙代をなるべく節約したいのだが、何か良い方法はないか?」私「注文書を受領した場合、請書を紙ではなく、PDFでスキャンしてメールで返信すればOK。ただし、建設工事請負契約の場合、建設業法のルールで、原則として注文書・請書は書面で取り交わす必要があり、この方法は使えない。」相談者「印紙の消印は契約書に押印した印鑑を同一印にしなければならないのか?」私「そんなことはない。個人が使用している職務印や認印でもOK。国税庁HPのタックスアンサーにもその旨が解説されている。」
なお、相談者に回答する際には、国税庁HPで公表されている「印紙税の手引き」やタックスアンサーを参考資料として案内することも多く、おおいに活用している。
2.まとめ
いずれにせよ、これらの二点の規制改革は企業法務の分野にも大きな影響を与えることは確実。従って、まずは状況の推移を見守りたい。しかし、新型コロナウイルスが企業法務の分野について、ここまで影響を及ぼすとは予想もできなかった。まさしくVUCA(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性)を実感している今日この頃。