1.とある光景
ある日、営業担当者Aさんに呼ばれて、別フロアにおいて法律相談を行ったときのエピソード。 20分ほどでAさんとの打ち合わせが終わり、そのフロアを辞去しようとしたところ、別の営業担当者Bさんがひょっこり私の方にやってきて、「Sabosanの姿がちらっと見えたので、お声をかけました。一つ法律相談があるんだけど今お時間は大丈夫ですか?」と呼び止められた。私は「ええ、別に構いませんよ」と答えてBさんの机まで移動してから打ち合わせを行い、アドバイスを行った。その最後の方のやりとりは以下のとおり。
私「…という感じに対応すれば、このケースはうまく解決すると思いますよ。」
B「なるほど!助かります。Sabosanは何でも気軽に聞きやすいので、非常に助かります」
私「いえいえ、お安い御用です」
私は恐縮しつつ、そのフロアを退去したが、その日の帰りに電車に乗っているとき、「Bさん頂戴したお言葉は、企業法務担当者にとって貴重なほめ言葉じゃないのかなあ。」とふと考えた次第。
2.最終的には人間力
これは法務リスクに限らない話だが、リスク管理のポイントとは、リスクが大きく顕在化する前に、リスクが小さい段階で適切に対処しておくことである。リスクの発覚が遅れれば遅れるほど、その対応に時間と労力を割かれることになる。従って、法務部門はリスクを早い段階で察知しなければならないが、先日の記事でご紹介したアフラックの法務部門による「定期便」はまさしくこのような効果を狙ってのことだろう。
しかし、そのようなアクティブな活動を行っていない場合、なんとかして早い段階で社内クライアントから相談を受けてリスクを把握するしかない。そのためには、社内クライアントが法務部門に対して心理的障壁や苦手意識を持たずに気軽に相談できる一種の敷居の低さ(風通しの良さ)がどうしても必要。例えば、社内クライアントが法務部門に対して「こんな相談をしたらバカにされるかも…」「あの人はいつも高圧的で相談しにくいんだよなあ」「法務っていつもダメ出ししかしないんだよね」という印象を持ってしまうとおおいにまずい。
結局のところ、企業法務やコンプライアンスと言っても、これらの仕事が完全に機械化されない以上、社内関係部門同士のアナログ的な人間関係の影響を受けることになる。従って、法務部門が本当に自社の法務機能の真価を発揮したいのであれば、社内クライアントとの良好な人間関係を構築するべく、「あの人ならなんでも気軽に相談できるし、人の話を丁寧に聞いて親身になって相談に応じてくれる」というイメージを持ってもらうことが大切。
つまるところ、企業法務担当者にまず求められるのは、パソコンだけを相手にして完結する単純な仕事スキルだけではなく、他者との円滑なコミュニケーション能力、すなわち対人関係構築能力だと思う。そして、そのベースとなるのは、安定性、誠実さ、ユーモア、平常心、忍耐力などのいわゆる総合的な人間力ではないだろうか。もちろん、これは一朝一夕で簡単に身につくものではなく、様々な人生経験を積み、ある程度の失敗を重ねたうえで、自己改善を継続することによってしか得られないだろう。