企業法務担当者のビジネスキャリア術

転職経験が豊富な企業法務担当者がライフログの一環として日々の出来事を記録しています。

【企業法務】与信管理のキャリアは企業法務担当者にも有益!?/リスク管理の統合的アプローチを追及するべし

1.企業法務担当者 兼 与信管理担当者

私は、契約審査や法律相談の業務をこなすにあたり、相手の会社の信用状況もチェックしている。つまり、企業法務の仕事でも与信管理的な考え方を常に意識している。どれだけ自社に有意な契約書を締結しても、相手方が倒産寸前の会社ならば、文字通り絵に描いた餅となるからだ。例えば、某社と新製品に関する共同開発契約書を締結するとしよう。そうなると、お互いの秘密情報やノウハウを開示しあうことになるが、仮に某社の信用度が悪い場合、共同開発の途中で倒産したときには、自社も損失(開発中止・情報漏洩等)を被ることになりかねない。そのような会社と共同開発を行うこと自体が大きなリスクとなってしまい、契約書を締結するよりむしろ関係を持たない方が望ましい。
 

 
それでは、会社の信用度はどのようにすれば確認できるだろうか?会社のホームページを見ても信用度はよくわからない(上場企業のように有価証券報告書などが公開されている場合は別)。最も簡単な方法は、帝国データバンク等の信用調査会社から企業情報を購入して、内容確認することだ。特に評点は一つの目安になる。例えば、評点が60点以上ならば、倒産する可能性は低いし、40点台ならば警戒した方がいい。ちなみに、50点が標準レベルだが、実は受験勉強の偏差値のように50点の会社の絶対数が最も多いというわけではなく、45点~50点付近に偏在しているのが実情(以前に帝国データバンクのWEBセミナーで聞いた話)。
 
現在、法務コンプライアンス部門のマネジャーをつとめているが、与信管理業務にも従事している私。そのスキルのベースは、前職(メーカー機能のある専門商社)時代に法務審査部門に在籍していたことにある。前職入社後に法務審査部門に配属され、唯一の企業法務担当者(一人法務)として法務全般に従事し、契約書・法律相談・法務研修等を担当した。例えば、契約法務では定型契約書を100種類以上を制定して、現在でもイントラネットで公開されているはず(まあ、私からその会社に対する置き土産のようなものだ)。
 
そうして、入社してから4~5年ぐらい経過した時だろうか。私は、企業法務と並行して某事業部の与信管理業務も担当することになった。当初は「何で?」と困惑したものだが、今にして思えば、この時に与信管理業務を経験したことは、現在の私にとって非常にプラスになっているから人生とは本当にわからない。
 

 
与信管理における主な業務は、おおむね以下のとおりで、前職時代におおむね一通り経験済み。現在では、これらの経験をもとに私なりにアレンジして自社内でも展開中。
 
  • 信用調査会社から情報入手
  • 取引(スポット・継続)開始前の取引先の与信調査
  • 取引先の定期的動向調査(モニタリング)
  • 信用不安情報入手時や倒産時の臨時対応
  • 社内への与信管理教育
 
例えば、国内超大手商社では法務部門と与信管理(審査)部門が完全に分離されており、一人がこれらを兼任するケースは少ない。一方、大手~中堅クラスの商社では、「法務審査部」「審査法務部」「リスクマネジメント部」などで、一人が両方を兼務することはあるかもしれないが、それほど多くないのでは?私の場合、企業法務をベースにしつつ与信管理のキャリアも積み重ねることができたのは、今にして思えば非常に幸運だった。1年前の転職活動でもそのあたりを強くPRしている。
 

2.与信マインドのメリットとは

例えば、売買基本契約書を作成・審査する場合、「相手方はこの条項を守るだけの財務体力はあるのか。帝国データバンクの評点は何点で、自己資本比率はいくらか?」「契約途中で倒産した場合の対処として、解除条項や期限の利益喪失条項はどこにあるのか?」などを意識しながら、より実効的な条項を起案するセンスが身につく。このような複線的な思考経路は、他の仕事にも応用がきくと思う。
 
あと、与信管理業務を経験して役に立ったのが、会社の決算書を読みこなせるようになったこと。それまでは、私は極端な会計オンチで数字を一の位からカウントしていたぐらいだが、現在は、決算書の損益計算書や貸借対照表を流し読みして、その会社の財務や業績などのポイントを把握できる。これは前職時代に与信管理業務の一環で、決算書や帝国データバンクの調査報告書を数多く読みこなしたおかげだ。
 
 
このように、私には与信管理に関するある程度のバックグラウンドがあるので、現職に転職した後に社内規定や社内向けデータベース(Microsoft 365のSharePoint)の整備や社内向け与信管理研修をスムーズに実施できた。まさかこうなろうとは前職時代には全く予想できなかったが、今後も前職在籍時に習得したこのスキルを自分なりにアレンジして伸ばしていきたい。
一般的に数字や会計に苦手意識を有する企業法務担当者は多いかもしれないが、与信管理的な視野や考え方は決して無駄にはならない。というわけで、企業法務担当者であっても、おかまいなしに与信管理部門等に放り込んで(?)、与信管理業務の経験を積ませる方が手っ取り早いが、そのような環境でない人には、せめて以下の書籍の通読をお勧めしたい。これらは前職時代からの私の愛読書で、現在でも定期的に目を通している良書だ。