企業法務担当者のビジネスキャリア術

氷河期世代の企業法務担当者がライフログとして日々の出来事を記録しています。2009年に開始したブログは16年目に突入しました。

【契約書】世界を震撼させたシステム障害から学ぶ!/契約約款の威力を体感した管理人から一言

1.世界的なシステム障害が発生

少し前の話になるが、7月19日にクラウドストライクのシステム障害により全世界レベルでWindowsが正常に起動しない不具合が発生。
 
影響は、医療・金融・鉄道・航空・放送など数多くの企業に波及し、日本でもUSJなどが影響を受けたという。その原因はクラウドストライクのシステムアップデートによるもので、損害金額は何兆円レベルに到達する模様。えらいこっちゃ。
 

 
私のパソコンはクラウドストライクはインストールしておらず(Windows Defenderのみ)、何の影響もなかった。しかし、外部からのウイルスに備えるはずのセキュリティソフトなのに、自らの不具合が原因でシステムエラーが生じるとはなんとも皮肉な話。とりあえず、企業法務担当者である私としては、クラウドストライクがユーザーに対して負担する責任内容が気になるところ。おそらくこのあたりの判断基準は同社と相手方との契約関係(契約約款や利用規約)がポイントになるはず。特に、サービスを一度に多数のユーザーに提供するシステム系企業の契約約款は、おおむね似たり寄ったりの内容になることが多い。具体的には、システムベンダの定型契約書には、「自社が提供するシステムについて一切責任(または限定責任)しか負わない。」と明記している(実はベンダ側の狙いの一つ)。もちろん、ユーザー側としては、自社に不利な契約内容となるため修正や削除を要求したいところだが、相手方と交渉しても「この契約に同意できないならば、ウチのシステムを使用しないで下さい」という身もフタもない回答が返ってくる。従って、「システム関連の契約約款や規約はまず修正できない」というのは企業法務担当者の間では常識中の常識(?)になっている。

興味半分にクラウドストライクの契約約款を確認してみると、やはりそのような条項が盛りこまれているようだ。第8条から第10条にかけて、自社を免責または責任限定するような契約内容となっており、同社の法務部門はこれを根拠に自社の損失ができる限り少なくなるように徹底的に理論武装するはず。
 

www.crowdstrike.com

 

2.不可抗力免責に遭遇した個人的経験

この契約約款というのは、多数のユーザーと取引を行う場合に適用されることが前提。私も以前にこの契約約款の適用に遭遇したことがある。ちょうど前職時代の2018年の金曜日に熊本営業所に法務研修の講師として出張する機会があった。その際、大阪(伊丹)空港から阿蘇くまもと空港までプロペラ飛行機(ANA)で移動。しかし、悪天候のため、阿蘇くまもと空港になかなか着陸できず、燃料切れのために結局2時間遅れで福岡空港に緊急着陸。ANA職員から新幹線の振り替え輸送のチケットをもらって九州新幹線に飛び乗って熊本を目指した。一応、熊本営業所に到着できたが、大幅に遅刻となってしまった。
遅延の原因は悪天候という航空会社にはコントロールできない不可抗力によるもの。ANAの契約約款には不可抗力免責が明文化されているため、私はANAの責任を追及できない。ただし、ANAのような大企業だからこそ振り替え輸送のチケットを支給してくれただけでもまだマシで、これが格安航空ならば、どうだったことやら。
 
翌日の土曜日は、阿蘇山を自転車で観光してから帰阪しており、一体何のためにわざわざ熊本までに行ったのやら・・・と後日になって苦笑したもの(笑)。まあ、その経験をムダにしないためにもブログに書いているのだけれど。
話を戻すと、今回のクラウドストライクの事例は、不可抗力ではなく明らかにメーカーの過失に起因するが、契約約款に明文化した責任限定条項を盾に必要以上の責任まで負わないはず。同業者として同社の法務部門の手腕に興味津々というところ。