1.GWは読書づくし!?
GWに入ったので、地元図書館に行って本を30冊ほど借りてきた。そのうちの一冊がこちら。
主人公の戸山福太郎(85歳)は、ボードゲーム制作会社を創業した成功者で、現在は娘婿に経営をゆだねた後、悠々自適の老後を送っている。しかし、時間を持て余した福太郎は、やがて周囲を巻き込みながら数々のトラブルを引き起こしていく。最終的には福太郎の老害はそのままで、我が道を行く(=現状維持)という結末を迎えるのだが・・・。「現実にこういう人が身近にいたらキツいよなあ」というのが読後に抱いた最初の感想。ちなみ、偶然だが、5月に本作がNHKで連続ドラマ化されるらしい。
「・・・ちょっと待てよ。そういえば、過去にリアル版『老害の人』がいたなあ。」とこの小説を読んで久しぶりに思い出したのが前職時代のTさん。この人ほど「ベスト・オブ・老害」というキーワードが似つかわしい人を私は後にも先にも他に知らない。さすがに謙虚な私は日本一、西日本一というおこがましい事(?)は言わないが、少なくとも大阪一と自信と確信を持って断言できる。それがTさんという人物。
今回は、そんなTさんのエピソードを紹介しよう。
※これまでの人生で出会ったダントツの老害キャラがこのTさん。ある意味貴重かもしれない。
2.最強の「老害の人」
・Tさんは17~18年ぐらい前に私が前職企業を応募した際の面接官として知り合った。面接当時は審査部門のマネジャーで、私が入社して、審査部門に配属された直後に役職定年(56歳)になって、マネジャーの地位を退く。その後に知ったエピソードだが、面接官の一人であるTさんは面接後に私を不合格にしようとしていたらしい。ところが、人事部マネジャーがそれを聞き間違えて、私に内定を出したというウソのようなエピソードがある。つまり、私は手違いで前職企業に入ったわけで、これって私はある意味強運の持ち主かもしれない!?
・Tさんは某メガバンクからの転職組で、とかく口を開けば、銀行時代のエピソード(自慢話&苦労話)がやたら多くて、周囲はかなり辟易していた(このあたりは冒頭の福太郎と同じ)。さらには、とにかく言い方が非常にキツいため、周囲に多数の敵を作るタイプだった。周囲からも完全に浮いており、一種の腫れ物扱い。ドラマ「半沢直樹」に登場しそうな小悪党タイプといったところか。
・Tさんは役職定年後も審査部門にそのまま在籍しており、自分の後任マネジャー(=Tさんと犬猿の仲)とよくケンカをしていた。また、社内クライアントからも「なんだアイツは!」と評判が非常に悪く、クレームも絶えない。Tさんの扱いにほとほと困った後任マネジャーはTさんを別部門に異動させようと裏で画策したが、「あの人は絶対にいらない!」と結局引き取り部門はあらわれなかったらしい。その結果、Tさんはそのまま65歳まで前職企業で「飼い殺し状態」となる。あと、Tさん自身は奥さんとも折り合いが悪く、「定年延長でも雇用延長でもなんでもいいから会社に行って!なるべく自宅にいないで!」と言われていたとか(←相当なレベルだよコレ・・・)。
・というわけで、私は審査部門の同僚として老害Tさんと机を並べて仕事をすることになる。それでも仕事上の接点がなかったならば、まだしもよかった。しかし、私は企業法務に加えて、与信管理も担当することになり、そのメンターにはなんと老害Tさんが指名されて、「ひえええ~~~~!一体これは何の罰ゲームやねええん!」とげっそりした記憶がある(泣)。
・こうして、様々な偶然と上層部の思惑の結果、私とTさんとの奇妙な子弟関係(?)がスタート。Tさんは今でいうハラスメントに近い発言も多く、私も腹が立ってTさんに言い返したこともあるが、詳細は忘れた(私も神経は図太いし、結構言い返すタイプ)。その一方で、Tさんの銀行員時代の貴重なエピソードを聞く機会にも恵まれたのは幸運だった。その結果、私は企業法務だけではなく、与信管理の実践経験を重ねてその専門知識を深めることで、いわば「二刀流」のキャリアを築く貴重な機会に恵まれたから・・・。決算書の仕組みを理解して企業分析に活用できるようになったのはある意味Tさんのおかげかも。
・ヘッドハントを受けて現在は別会社でプレイングマネジャーを務める私にとって、この時に習得した与信管理スキルが私の強力な武器になっているのだから、つくづく人生とは本当にわからない。私は自社での仕組み作りを比較的スムーズに構築しているが、この時の経験がベースになっているのは間違いない。
・先に述べたとおり、Tさんは選考面接当時に私を不合格にしようとしていたが、入社後の私の仕事ぶりを見て、最後の方では私に対する評価を変えてくれたし、それはそれでうれしかった思い出がある。
・結局、Tさんはそのまま65歳で前職を退職する。そして(周囲の人物が心の底から待ち望んだであろう)Tさんの最終出社日に私は法務研修の講師として、午前中に広島出張に行くことになっていた。職場で老害扱いされ、嫌われ者のTさんだが、さすがに会うのはこれで最後になるから、私が「今までお世話になりました」とお礼を言ったところ、Tさんがニヤリと笑って私に手を差し出して握手を求めたのは今でも覚えている。それがTさんを見た最後の姿。
あれからかなりの歳月が経過したが、Tさんは今どこで何をしているのだろうか・・。多少は老害ぶりはおとなしくなったのか、それともより加速しているのだろうか?今となっては私にとってはどうでもいい話なんだけれど。ご本人は、紆余曲折を経て私が前職から転職して別会社でプレイングマネジャーをしていることは知らないだろうし、私がこうしてTさんの老害ぶりをネタにしてブログを書いている事もおそらく知るまい(笑)。
私も転職して、Tさんの事はすっかり忘れていたが、冒頭の小説を読んで、久しぶりに思い出したというわけ。現在は、プレイングマネジャーを務める私だが、部下にTさんのようなタイプがいたら、相当てこずっていただろう。しかし、「世の中には本当にいろいろなタイプの人間がいるなあ」と肌感覚で学んだことが現在のマネジメントスタイルに結構役立っているから不思議。
もっとも、Tさんは強烈過ぎるキャラクターだったとはいえ、人間だれしも歳をとれば老害になる可能性がある。そうならないためには、環境適応能力、特に人間力(ヒューマンスキル)をアップデートし続ける必要があると思う。
私にとって、Tさんとは「人間、こんな風に年はとりたくないな・・・」という強烈な意識を与えてくれたある意味最高の反面教師(?)だった。「人生の後半戦は、いかに美しく年齢を重ねていくか」という重要課題を示してくれた大恩人と考えれば、Tさんと知り合ったことはそう悪い話ではないかもしれない。むしろ、そうして得た学びを今後の自分の人生に生かしていきたいもの。それこそが人生の醍醐味だろう。