企業法務担当者のビジネスキャリア術

転職経験が豊富な企業法務担当者がライフログの一環として日々の出来事を記録しています。

【今週のお題】コンプライアンス違反からの卒業/日産自動車が下請法違反で公正取引委員会から勧告処分

今週のお題「卒業したいもの」

 
 

1.コンプライアンスの機能不全!?

企業法務担当者にとっては耳を疑うようなショッキングなニュースが飛び込んできた。なんと大手自動車メーカーの日産自動車が公正取引委員会から下請法違反の勧告処分を受けたという。報道によると、同社は下請部品メーカー36社に対する支払代金から割戻金として、約30億円を不当に減額していたとの事。YouTubeのニュース動画で公正取引委員会の記者会見を視聴したが、実際の生々しい状況が説明され、企業法務担当者にとって、なかなかに興味深い。特に私が違和感を抱いたのが、「相当古くからの慣習として続いており、下請会社との合意があったので、違法性の認識はなかった」という少々苦しい言い分。下請法は強行規定であり、合意の有無を問わず、適用されることは常識なのだが・・・。
 
この金額規模からは、「すみません、うっかりミスでした」で済む話ではなく、調達部門による確信犯の疑いが濃厚。割戻金とは、例えば、買主が売主に対して部品10,000円で注文書(3条書面)を交付しておきながら、(部品が不良品でないにもかかわらず)実際の支払期日において、「割戻金・協力金・返戻金」などの名目で9,000円しか支払わないというのが典型的パターン。また、春闘で大手企業が満額回答を連発している時期に今回のような不祥事発覚とはタイミングも非常に悪い。日産自動車は自社の従業員には気前が良い一方で、下請企業には代金減額を強制していたという構図が浮かび上がり、被害企業としてはやりきれないだろう。
 

その際、企業法務担当者として気になるのが、同社の法務コンプライアンス部門はどこまで把握・関与していたという点。日産自動車のような超大手企業ならば、法務コンプライアンス部門もかなり充実しているはず。例えば、dodaの求人情報によれば、現在25名もの人員がそろっているようだが・・・。
 
 
これだけの人員が整備されている上場企業において、今回のようなコンプライアンス違反が発生することは到底考えられない。残念ながら、日産自動車のHPに記載されている「コンプライアンス部門のVISION」「コンプライアンス部門で働く魅力」「コンプライアンス部門からのメッセージ」というキーワードには少々複雑な印象を抱かざるを得ない。
 
 
ちなみに、我が家の車が日産ならば、私自身もかなり複雑だったろうが、これまで我が家では日産の車に乗ったことはない。4年ほど前に自動車事故で大破した際でも、事故車両と同じくホンダ車(FREED)を購入している。
なお、よく誤解されやすいが、下請法は(例えば商社でよくあるような)標準品の売買取引には全く適用されない。下請法取引4類型のうち物品取引のケースに限定すれば、日産にとって資本金3億円以下の仕入先から特注品(買主である日産が仕様を指定するカスタム品)を仕入れる場合に下請法が適用される。自動車メーカーは、自社製品である完成車の製造に多数の特注品を調達するだろうし、下請法が適用される対象取引は多いはず。あと、公正取引委員会がHPで公開している勧告内容によれば、日産自動車は主に以下の行為を命じられている。おそらく同社のコンプライアンス部門が中心となって、これらに取り組むと思われる。
 
  • 取締役会で自社の行為が下請法違反であることを確認する決議を行う。
  • 不当減額分の約30億円を下請部品メーカーを支払う。
  • 法務担当者による定期監査や社内研修を実施する。
 
 

2.下請法は私にとって恩人!?

実は、この下請法は私とはかなりの因縁がある法律。前職時代に自社の下請法遵守体制に相当関与していたため。当時の私は、公正取引委員会の担当者が下請法調査で来社した際にも立ち会っているし、担当官とも話をしている。その後の対応策の一環として、社内規程の新設(今でも前職のイントラネットで公開中)や全国の自社拠点を行脚して、法務研修(下請法勉強会)の講師役を務めている。従って、公正取引委員会の下請法テキストをボロボロになるぐらい読み込んだのは良い思い出。
 
 
このように、公正取引委員会の下請法調査をきっかけに、私は前職の唯一の法務担当として、北は札幌から南は熊本まで巡り巡る全国規模の法務研修をたった一人で敢行している(今思えば、相当な無茶ぶりなプランだったと思うし、自分でもよくやったと思う)。もっとも、今にして振り返れば、この全国出張を伴った法務研修は以下のとおり、私の人生において非常にプラスとなった。
 
①プレゼンスキル(パブリックスピーチ力)の向上
プレゼンがうまくなる方法は何か?ズバリそれは「数多くの場数をふむこと」。それにつきる。例えば、私は、首都圏の営業所では、100人規模の聴衆を相手にマイクで話しながら、パワポのスライドショーを操作するという経験を何度も行っている。一方で零細規模の地方拠点では2人を相手に膝を突き合わせて講習を実施。このように、様々な状況において、非常に密度の濃いプレゼンを積み重ねた経験をきっかけに、私のプレゼンのスタイルがほぼ確立。並行してプレゼン関連本を読み漁って、使えるテクニックを少しずつ取り入れた。このようなトライ&エラーの繰り返しのおかげで、プレゼンスキルを伸ばすことができた。
 

ちなみに、このプレゼンスキルは転職後の現職でもおおいに役にたっており、「Sabosanはプレゼントークがうまい。アドリブなど場慣れしている感がある」というありがたい評価を頂いている。今にして思えば、この千本ノックで相当鍛えられたおかげだろう。このプレゼンスキルは、パブリックスピーチにも通じるものがあり、経営会議などの場で発言を行う際にも役に会っている。
 
②城めぐりの機会
近畿圏ならば、日帰り出張で対応可能だが、遠方拠点ともなるとそうもいかない。その場合は宿泊込みで、飛行機や新幹線で各地の拠点に出張していた。例えば、日曜日に前泊し、月曜日に研修実施または金曜日に研修実施し、ホテルに宿泊してから翌土曜日に帰阪するという事も多かった。そうすると、移動日が休日になるため、その機会を生かして各地のお城巡りや歴史スポットを散策したもの。特に東海地方や九州地方は歴史的な名城も多く、有名な城はほぼ制覇することができたのは歴史ファンである私には何よりの貴重な経験。特に福岡県柳川市で「関ケ原からの復活大名」の異名を持つ名将 立花宗茂が実際に着用した鎧兜を見たときは心の底から感動した。
 

3.まとめ

今回、公正取引委員会が「クロ」と認定したように、日産自動車の下請代金の減額行為は、完全なコンプライアンス違反。国内最大規模の下請法違反事例として歴史に残るのは間違いない。さて、同社の今後のアクションとしては、
 
  1. 現状の把握
  2. 原因の特定
  3. 改善策の実施(下請法勉強会の実施等)
  4. 継続的なモニタリング
 
など息の長いミッションが待ち受けているだろう。おそらく、その旗振り役は同社のコンプライアンス部門のはず。法務コンプライアンス部門の現職マネジャーである私にとっても同社の「コンプライアンス違反の卒業」に向けた動きはかなり興味深い。「同業者」として今後の行方を見守りたい。