1.組織とはトップ次第
現在、兵庫県知事のパワハラ問題がニュースでクローズアップされている。法務コンプライアンス部門のマネジャーである私も社内のハラスメント問題に対処することがあり、この問題には非常に関心を抱いている。
職員に対する緊急アンケートを行った結果、知事の以下のような問題行動が判明している。
- 部下に文房具をなげつける
- 20メートル以上を歩かせると激怒する
- イベントや視察に行くときは鏡つきの個室が必要
- 車のドアは職員が開ける
- 公用車で後部座席から運転席を蹴る
- 着替えのシャツはしわになるので、カバンに入れずに職員に持たせる
- 出張先で靴ベラがないと激高する
- 視察時には全身鏡と三面鏡を準備しないと怒る
- 机をバンバンと叩いて怒る(半沢直樹?)
- 広報物には必ず知事の顔写真を掲載する
- 視察先ではお土産をおねだりして無理に持って帰ろうとする
これらが本当に事実ならば、「この知事は人としての器が小さいな~」というのが私の感想。地方自治体のトップならば、もっとゆったりと鷹揚に構えて、大局的な視野をもって県民の課題解決に取り組むべき。そのために、組織内のヒト・モノ・カネなどのリソースを適切に活用し、国や他の自治体とも調整し、職員が働きやすいようにサポートする。一方で、部下に対してハートフルに広い心でやさしく接しつつ、時には厳しく指導する。現時点では変な先入観を抱くのは禁物だが、まるで三流ドラマの小悪党のような小物っぷりが目につく。この手の小人物に権力を持たせるとロクな事が起きないのは言うまでもない。
これから知事の行為がパワハラに該当するか今後専門機関で検証するだろうが、問題は厚生労働省が公表するいわゆる3要件に該当するか否か。
- 優越的な関係に基づいて行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
ポイントは要件2で、大半のケースでは加害者は「あれは業務の適正な注意・指示(=愛のムチ)だった」と主張することが多い。
今年の春には岐阜県岐南町や愛知県東郷町の町長もハラスメントで辞任に追い込まれているし、その決め手はいずれも弁護士で構成された第三者委員会が公表した調査報告書がいわばトドメとなっている。今回もそうなるのだろうか?しかし、今年は地方自治体トップにおけるハラスメントが目立つ不名誉な年になってしまった。
2.昭和脳マネジャーあるある
今回のアンケートによると、知事は影で「暴君」「瞬間湯沸かし器」という不名誉なあだ名がつけられていたようだが、そのキーワードで久しぶりに思い出したのが前職時代の某事業部のトップを務めていたAさん。Aさんは典型的なパワハラマネジャーで、「どなる・怒る・キレる」の三拍子が見事なまでにそろった人。例えば、兵庫県知事のように瞬間湯沸かし器となって激高する、部下に「そこに立っておけ!」と理不尽な命令を下すなどとかく問題行動が多かった。そのため、その事業部内にはメンタルを病んで休職・退職する者もあらわれ、Aさんがトップをつとめていた全盛期の頃は事業部の空気も非常に悪かったと聞く。
当然ながら離職率も高いため、ベテランの中堅層が少なくなり、組織内の人員構成も少々いびつになっているが、その戦犯はもちろんAさんだろう。ようやく役職定年になったAさんは、なんだかんだとその事業部にしぶとく在籍していたが、昨年にようやく会社を去ったと風の噂で聞いた。おそらく周囲の人々は「やれやれ、老害がやっといなくなったよ」と密かに祝杯をあげたことだろう(笑)。
3.マネジャーの最も重要な仕事とは?
現職で上級管理職(プレイングマネジャー)を務めている私に言わせれば、令和時代のマネジャーの最も重要な仕事は、ズバリ組織内の心理的安全性を確保すること。それにつきる。心理的安全性とは、「自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態」「上司や同僚に異なる意見を言ったとしても、人間関係が破綻したり、相手から拒絶されたりしないと感じる状態」をいう。つまり、仕事の成果を発揮するために風通しの良い組織風土を意味するが、組織をそのような状態に持っていくのも管理職の仕事。従って、私は部下からの意見は歓迎するし、そのような雰囲気作りに細心の注意を払っている。それが私なりのマネジメント像。
例えば、厚生労働省の「パワハラに関する実態調査」によると、パワハラの相談がある職場に共通する特徴として、①上司と部下のコミュニケーションが少ない、②失敗の許容度が許されない、③残業が多くて休みが少ないなどがあげられる。このように、ハラスメントは個人の問題ではなく、組織全体の問題であり、その加害者は暗黙的に組織のあり方を具現しているともいえる。つまるところ、組織の雰囲気を整えるのはトップ次第であり、当然ながらトップには人間力(ヒューマンスキル)を高める努力が求めれる。
私としては、可能ならば兵庫県知事に対して「松下幸之助の『成功の金言365』や中国古典(論語・菜根譚・老子等)を読んで、もっと他者への思いやりと謙虚さを身につけなさい」と諫言してやりたいところ。これらを毎朝通読している私にしてみれば、古代の偉人の名言から学べることは想像以上に多く、現代ビジネスパーソンにとって非常に有益となるからだ。
昨年から某中古車販売店や某大手歌劇団などでパワハラなどの問題がクローズアップされているし、昭和や平成時代にはかろうじて許容されていたハラスメントが、令和になって「決して許されない行為」という新しい常識に変化しつつあるような気がする。まして、2020年にはハラスメント防止措置の義務化が明確に法令となっており、各企業は社内でハラスメントが起きないように仕組みの構築が求められている。このようなコンプライアンス重視の傾向は、今後ますます加速していくのは明白であり、業種や規模を問わず現代企業にとって「法務コンプライアンス・リスクのコントロール」は、重要な経営課題の一つになるだろう。
さて、冒頭の兵庫県知事の話題に戻るが、果たして兵庫県職員が「祝杯」をあげる時はやってくるだろうか?法務コンプライアンス業務に従事する私としては、今後の流れに注目していきたい。