企業法務担当者のビジネスキャリア術

転職経験が豊富な企業法務担当者がライフログの一環として日々の出来事を記録しています。

【企業法務】法務部門と知的財産部門の仕事の相違点と類似点とは!?/過去に知的財産部門に在籍していた経験をふまえて

1.またもや社内講師役に

時期はまだ未定だが、春までに社内向けに知的財産研修の講師を務めることになりそう。
 
早速、資料作成に着手しているが、私は、法務研修や与信管理研修に加えて、前職時代には知的財産研修も経験済み。社内研修やプレゼン等については、ベテラン経験者なので、まず問題なく対応できるだろう。
 
そういえば、世間一般では、企業法務と知的財産の業務の違いについて正確に知っている人は意外と少ない。私も過去に何人かの知人からそのような質問を受けたことがある。私が企業法務の道に進むきっかけとなった以下の書籍にも法務・知的財産が1冊内にまとめて記述されており、大枠は同じ仕事分類であるかのように思える。しかし、両者は全く別物の仕事。
法務・知的財産部 (図解でわかる部門の仕事)

法務・知的財産部 (図解でわかる部門の仕事)

  • 作者:辛島 睦
  • 日本能率協会マネジメントセンター
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例えば、転職サイトなど求人情報を検索する場合、「法務」と「知的財産」は同じ管理系職種でありながら、別区分として分類されている。以下はdodaの職種別の求人検索画面。

 

※1年前は頻繁にチェックしていたdodaのサイト。ちなみに、法務の求人件数が知的財産の2倍以上という事実はなにやら興味深い。

 

doda.jp

 

 

めちゃくちゃシンプルに説明すると、企業法務はコンプライアンスを含む法律問題全般(広く浅く。ただし、時には深く)が対象である一方、知的財産は知的財産権(深く狭く)に特化した業務といえる。試しに、AIに質問すると以下のような回答が返ってきた。

 
【質問】
企業法務と知的財産の相違点と類似点について教えて下さい。
 
【回答】
企業法務と知的財産の相違点と類似点
 
1. 担当業務
企業法務は、企業が事業活動を行う上で必要となるあらゆる法律問題を扱う部署です。主な業務内容は以下の通りです。
 
・契約書の作成・交渉・レビュー
・訴訟・紛争対応
・法令遵守体制の構築
・M&Aや事業再編に関する法務サポート
・社内向け法務研修
・リスク管理
 
一方、知的財産は、企業が保有する特許、意匠、商標、著作権などの知的財産権に関する業務を扱う部署です。主な業務内容は以下の通りです。
 
・知的財産権の出願・登録・維持管理
・ライセンス契約
・知的財産権侵害対策
・知的財産権のポートフォリオ管理
・知的財産権に関する調査・分析
・知的財産権戦略の策定
 
2. 専門性
企業法務は、幅広い法律知識が必要となる総合的な職種です。一方、知的財産は、知的財産権に関する専門的な知識が必要となる専門性の高い職種です。
 
3. キャリアパス
企業法務は、法務部長や取締役法務担当などの役職を目指すことができます。一方、知的財産は、知的財産部長や知的財産戦略担当などの役職を目指すことができます。
 
4. 類似点
企業法務と知的財産は、企業の経営活動を支える重要な役割を担っているという点で共通しています。また、法律知識が必要となる職種であることも共通しています。
 
5. 相違点
企業法務は幅広い法律問題を扱うのに対し、知的財産は知的財産権に特化した業務を扱います。また、企業法務は総合的な職種であるのに対し、知的財産は専門性の高い職種です。
 
6. 関係性
企業法務と知的財産は、密接に連携して業務を行うことが多くあります。例えば、企業法務が契約書を作成する際には、知的財産と連携して知的財産権に関する条項を盛り込む必要があります。
 
7. まとめ
企業法務と知的財産は、それぞれ異なる専門性を持ちながら、企業の経営活動を支える重要な役割を担っています。両者の違いを理解した上で、自身のキャリアパスを考えることが重要です。

 

2.法務と知財との違い

先に述べたとおり、私は前職時代に法務審査部門に13年在籍した後、知的財産部門に2年弱在籍していたので、知的財産の実務(あくまで出願や中間処理などの初心者レベル)については、ある程度経験済み。そうして両方の職種を経験した立場からは言わせてもらうと、やはり両者は全くの別種の仕事。例えば、知的財産業務には、明細書を理解するために自社技術を理解する能力が必要となり、典型的文系人間である私はえらく苦労した思い出がある。また、特許庁に対する知的財産権(特許・意匠・商標)の登録業務に知的財産権部門のリソースの大半を注ぎ込むという側面が大きく、「特許庁の審査をいかに攻略して知的財産権の登録に持ち込んでいくか」が最優先事項となる。このあたりは司法書士事務所と法務局の関係性と類似している。
また、会社によっては、知的財産権の申請・登録がノルマになっているところもあり、どうしても数多く出願して、出来る限り広い権利範囲(クレーム)で権利獲得することが主眼になっていく。その業務内容が周囲からわかりくいためか、「お金ばっかり使って一体何をやっているかわからない部門」という目で見られる事もあるらしい・・・。
 

 
また、知的財産権は、他社の類似技術を排除するというのが目的だが、苦労して知的財産権を取得しても、それを行使することは言うほど簡単ではない。例えば、模倣品の入手や社内調整で様々なしがらみが発生し、実は権利行使のハードルがそれなりに高いのが難点。
 
つまり、知的財産権とは、企業が特許事務所などの外部リソースを活用しながら、将来的な模倣品リスクに対応するための保険群のようなもの。現実の保険と同じで、いざという時には助けになるが、使わないときは全く使わないし、いざ使おうと思っても様々なハードルがある。
いわば、企業が知的財産権を取得するという行為には、「抜かずの宝刀」を揃えていくという現実的な側面があり、「それなりに苦労して取得したが、結局使わない」という顛末を迎えることもないこともない。例えば、ニュースで報道されるような世間一般の知財係争は、ほんの氷山の一角に過ぎず、日本中の会社同士で年がら年中知財係争が頻発しているわけではない。

 

まとめると、法務部門と知的財産部門は、秘密保持契約書や共同開発契約書などで若干重複しうる部分があるが、全くの別物の仕事と言っていい。従って、私の場合、せっかく法務担当者時代にコツコツと習得したスキルが知的財産部門に異動した後にほとんど生かせず、失望した記憶がある。ただ、前職時代に、自社を原告とする特許侵害訴訟の最初から終わり(=勝訴)まで担当者として一通り経験できたのは、本当に良い経験だった。転職活動でも格好の自己PR材料になったし・・・。
 
 
ともあれ2年弱所属した前職の知的財産部門だが、その時点において、もはや私が法務部門に戻る道も絶たれたので、「そろそろ自分のスキルが生かせる道に戻ろう」と思って、昨年1月より転職活動を開始する。そして、運が良かったことに、比較的早い段階で転職エージェントからヘッドハンティングを受けて、現在のポジションに至る。ちなみに、その際にお世話になった転職エージェントからは「Sabosanのように、知的財産と与信管理を経験した企業法務担当者というのは国内的にはかなり珍しいキャリアですね。」と言われたことがあったが、自分でも本当にそう思う。
 

 

このように、多少のミスマッチ(?)はあったが、今にして思えば、普通の企業法務担当者ならば、まず経験することができなかった知的財産実務の一端に触れたのは、前職時代における貴重な経験だった。このときの数々の経験が現職における開発部門や知財部門と円滑なコミュニケーションを築くのに役立っているから人生とはつくづくわからない。

 

 

紆余曲折を経て、現在、企業法務という「本来の自分がいるべきフィールド」に戻っている私にしてみれば、まるで遠い留学先から戻って視野が広くなったような肌感覚をおぼえている(正直なところ、今回のような知財研修担当には一種の懐かしさを感じないでもない)。せっかくなので、この幅広いバックグランドを生かして、視野の広いプレイングマネジャーとして今後のキャリアを形成していくつもり。