1.契約書に潜む巧妙な罠!?
先日、図書館で偶然手に取ったミステリー小説『倒産続きの彼女』に、企業法務担当者として思わず唸ってしまう描写を発見。本作は、弁護士である主人公が、「会社を倒産に導く女」と噂される経理担当者の調査を進める中で殺人事件に巻き込まれていく、というストーリー。その序盤に描かれていた、ある企業の「契約トラブル」のくだりが非常に示唆に富んでいた。
物語に登場する老舗アパレル企業のゴーラム商会は、フランスのランダール社との独占販売契約によって主力製品を仕入れて、国内で販売していた。しかし、ある時、ランダール社が値下げを条件に提示してきた新しい独占販売契約書にはとんでもないトラップが仕掛けられていた。つまり、ドラフト段階では存在していた「自動更新条項」が、最終的にサインされた契約書では削除されていた。この細工に気づかなかったゴーラム商会は、当然のごとく契約が自動更新されると思い込んでいたが、実際には契約は短期間で終了。主力製品の独占販売権を失う事態に陥る。その原因は、タイミングの悪さも重なっており、社内の企業法務担当者が相次いで退職し、誰も契約書の最終版に目を通していなかったというもの。
2.現実世界にも潜むリスクへの警鐘
ドラフト段階で何度も修正を重ねて相手方と交渉を重ねて、少しでも自社に有利な契約内容を目指すのは、企業法務担当者にとって日常業務の一環。しかし、この小説が突きつけるのは、「記名押印する直前の最終版に、契約審査時には気づかなかった巧妙な罠が仕掛けられている可能性もある」という現実的なリスクだ。

契約書のドラフト段階では、企業法務として相手方と何度もやりとりを重ね、自社に有利な条件を勝ち取るのは企業法務担当者にとって最優先の使命。しかし、最後の最後、いざ記名押印する直前に、ドラフトとは異なる不利な条項が紛れ込んでいたら――。それに気づかずサインしてしまえば、もう後戻りはできない。これは決して小説の中だけの話ではない。現実の世界でも、このようなミスによって企業が大きな損害を被るケースは起こり得る。それを防ぐためには、記名押印直前の企業法務担当者による最終チェックが必須であることを、改めて強く認識させられる。
もっとも、小説では追求されていなかったが、自動更新条項には「契約延長を希望しない場合には満了日の●ケ月前に相手方に書面で通知する」という定めが明文化されていることが多い。従って、自動延長条項が存在したとしても、当初の契約満了日以降に契約延長を希望しない旨の通知書を相手方に交付すれば、契約期間は延長されずに満了してしまうのだが・・・。従って、実務の世界で考えると、自動延長条項が明記されていれば万全というわけではない。
3.「最後の砦」としての責任
自社の法務部門マネージャーである私は、全ての契約書に押印(電子契約含む)する立場にある。そのため、リーガルチェックを経て相手方との契約交渉がきちんと反映されているか、細心の注意を払って確認している。いわば、契約締結に向けた「最後の関門」としての役割を担っており、その責任は非常に重大。具体的には、ドラフト版の最終合意案と最終的な清書版を丁寧に比較してチェックする。ちなみに、こういった場合、マルチディスプレイは非常に便利。
今回の小説のような可能性は決してゼロではない。だからこそ、常に「性悪説」に立って対処し、いかなるリスクも見落とさないよう、これからも気を引き締めて業務に臨んでいきたい。

