企業法務担当者のビジネスキャリア術

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【書評】「狭小邸宅」新庄耕(集英社)/過去にハウスメーカーの営業と接点があった自分には身につまされる小説

先日図書館で借りたのがこちらの小説。

新卒で不動産販売会社(ブラック企業)に入社した主人公がパワハラなどの理不尽な仕打ちを受けながらも、必死にノルマをこなそうとする姿を描いたもの。主人公たちが受ける「洗礼」の数々が強烈で、誰かの実体験をそのまま小説にしたのではないかと邪推したくなるほどのリアリティ。物語中盤で、主人公はあるきっかけで、営業のコツをつかんで、営業成績を伸ばすことになるが・・・。

 

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私は、20代の頃、大阪市内の司法書士事務所に勤務していたことがある。その事務所は某大手ハウスメーカーが主要顧客で、そのハウスメーカーで自宅を新築した施主について、所有権保存登記(権利書作成)と抵当権設定登記(住宅ローン設定)を行う、というのがメイン業務だった。当時は現在のような郵送申請は認められていなかったので、下っ端であった私は、関西圏の法務局や市役所のあちこちに何度も足を運んだし、施主と直接触れる機会もあった。kigyouhoumu.hatenadiary.com

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従って、不動産登記の都合上、某ハウスメーカーの営業担当者と接点を持つ機会があり、営業の大変さを聞くこともあった。

  • 休みは土日でなく火水。従って、世間の休みとズレているため、友人と予定を合わせることが難しい。
  • 施主との打ち合わせは、夜遅くまで及ぶことが多く、長時間労働が日常茶飯事。
  • ハードな労働環境のためか社員の離職率は比較的高い。
  • 実際に家が売れた場合、インセンティブが会社から支給される。従って、同じ営業所でも成績の上下によって年収格差が大きい。
  • 営業担当者の社内の評価基準は「家が売れるかどうか」につきる。成績が悪い状態が続いた場合、管理部門またはグループ会社(リフォーム会社など)に左遷される。
営業の仕事といっても、B to Bまたは B to Cのいずれかによって、その実情は異なるだろう。当たり前だけれど、住宅自体は高価で、競業他社も多いため、売るのは本当に大変だと思う。やはり過酷な労働環境に耐えきれなかったためか、そのハウスメーカーの営業担当者も、入れ替わりが結構激しかった。
 
このように、当時の仕事の関係で不動産業界の裏側を垣間見ていた私は、不動産系の会社には苦手意識というか、ネガティブなイメージが染みついていた。そのため、その後の転職活動時に人材紹介会社から不動産関連会社の法務担当を紹介されても、完全にスルー。しかし、結果としてそれは正しかったわけで、転職活動時の翌年(2008年)に発生したリーマン・ショックで、上場/非上場を問わず、当時の不動産系の会社は次々と経営破綻したからだ。

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さて、もし自分が本作の主人公と同じく、このようなブラック企業で勤務していたら、どうしていただろうか。・・・おそらく「逃げ」の転職をしていただろう。