1.管理職「罰ゲーム化」の真相
先日、「週刊東洋経済」の8/2号に目を通したところ、「脱・管理職罰ゲーム」という見出しが目に留まった。「それ、ゲームだったのか」と心の中でツッコんでしまったが、最近の管理職は、どうやら“ラスボス級の理不尽”を押し付けられる職種扱いらしい。
その特集記事を要約すると以下の通り。
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管理職の「罰ゲーム化」の深刻化: 管理職の業務負担と責任が増大しているにもかかわらず、それが報酬に十分反映されていない現状。
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組織構造の変化: ピラミッド型の組織構造が崩れ、フラット化が進んだことで、管理職のタスクが一方的に増加している。
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新たなミッションの追加: ハラスメント対応やコンプライアンス順守など、従来の業務に加え、新たな責任が管理職にのしかかっている。
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若手の「昇進忌避」現象: 上記の状況を受け、若手社員が管理職になることを避ける傾向が強まっている。
気持ちは理解できないこともないが、現役の管理職(プレイングマネジャー)として一言もの申したい。責任? もちろんある。業務量? めちゃくちゃ多い。前職に比べて会議や打ち合わせの件数は激増。ケースによっては月曜日から金曜日まで毎日何かしらの会議や打ち合わせに参加することもあり、体が一つで足りないと感じることもしばしば。だが、私はこれを「罰ゲーム」とは全然思っていない。

確かにマネジャーは立場上、責任は確実に重くなっているが、その分やりがいを感じており、日々それなりに楽しみながら仕事に取り組んでいる。例えば、部門マネジメント、経営会議での意見調整、他部署とのアライアンス構築、社内ルールのアップデート……いずれもプレイヤー時代では味わえなかったフィールドばかり。これを「しんどい」と見るか、「面白い」と見るか。実のところ、ビジネスパーソンにとってマネジメントとは“世界の見え方”を変える仕組みなのかもしれない。
2.「罰ゲーム」よりもひどかった前職時代
むしろ転職前の前職では非管理職のわりに割に合わない仕事もさせられたし(しかも、サービス残業というオプション付き)、それに比べれば現在は、相応の報酬を得つつ、ある意味楽しみながらプレイングマネジャーの仕事に従事。もともと職人気質の私は、コツコツを身に着けたスキルを思う存分発揮したいという願望を持っていたし、前職ではそれはかなわなかった。そんな悶々とした日々を送っていた時に突如舞い込んできたのが転職エージェントからのヘッドハント。当時の私にとっては、まさしく「渡りに船」状態で、この時の判断(=乗るしかない、このビッグウェーブに)が結果的には人生の大きな転換となった。そう、以下の記事にあるとおり、私のキャリアが激変。
3.たたき上げマネジャーとしての実践知
例えば、前職時代には「新任管理職研修」という制度があり、会社はかなりのリソースを割いて昇進直後の課長(おおむね40歳前後)に1年間かけて様々な分野(マネジメント・人事労務・管理会計等)に関する研修を実施していた。ちなみに、私はその新任管理職研修の法務パートの研修講師を受け持ったこともあり、その際、受講者の顔ぶれを見ながら「なるほど、この会社で出世するタイプはこのような人たちなのか・・・」と興味深く人間観察したもの。

一方、体系的な管理職研修を受けた経験は一度もない私だが、現職入社後にただちにマネジャー職に従事し、特に違和感なくスムーズにマネジメント業務をこなしている。それは、これまでビジネス書を多数読み込み、自分の中で「マネジャーとはかくあるべし」という哲学(イズム)を培ってきたのも一因だろう。すなわち、どの会社であっても、マネジャーは以下を役割をこなすことが求められる。
- 経営方針をチーム内に浸透させる
- チームの課題を特定し、それを解決する。
- チーム内の心理的安全性を確保し、チームとしての成果を最大化する。
- 人材を育成する(特に自分の後継者)。
そういえば、前職企業には、優秀なマネジャーからそうでないマネジャー(老害タイプ・マイクロマネジメントタイプ)まで、個性的で多種多様なマネジャーが存在した。ある意味、彼らが私にとって生きた教材(ケーススタディ)となり、マネジメントに関する多様な側面を学ぶ機会を与えてくれた。それが現在の私に思わぬ恩恵となっているから人生は本当にわからない。要は、彼らの「良い面」は真似をして、「悪い面」は反面教師にすればいいだけ。
そして、現役管理職である私に言わせれば、「マネジャーは人間力が重要。それがあればマネジメントは十分こなせる」というのが持論。かの有名なピ-タードラッカーも「マネジャーには真摯さが求められる」と自著で述べている。
4.管理職は「罰ゲーム」ではなくクラスチェンジ?
週刊東洋経済の記事と違って、私は管理職を「罰ゲーム」とは全く思っておらず、「ビジネスパーソンのもう一つの役割」と認識している。そして、その役割を全うすることこそが、自身の成長と会社の発展に繋がると確信している。振り返れば、私のマネジャー人生は、EASYモードではない。むしろHARDモードに片足突っ込んだような日々。だがそれは「試練」ではなく、「修行」であり、「苦役」ではなく「進化」だと認識している。私は、この役割を「ビジネスパーソンが人生において自己実現を果たすためのクラスチェンジ」だと捉えている。

私は、ELDEN RINGやSEKIROなど、“死にゲー”を愛してやまないゲーマーでもある。難易度が高いほど燃えるし、クリア後の達成感もひとしお。そう、例えるならば、管理職とはまさに“リアル死にゲー”なのだ。ただし、違いがあるとすれば、こちらの方は一度失敗してもコンティニューがきかないという点だろうか。・・・いやいや、そこは気をつけることにしなくては。
以上が、「管理職=罰ゲーム」説に対する私なりのアンチテーゼだ。確かに、マネジャー(管理職)はしんどい時もある。だが、それを上回る仕事の面白さや達成感がある。縁あって「マネジャー」というステージに一歩足を踏み入れたからには、私は私なりに、そのステージ攻略(=人生における自己実現)を楽しみながら全力で進んでいきたい。
